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報道関係者映画試写会 『長いお別れ』

報道関係者映画試写会です。
タイトルの『長いお別れ』と聞いて、直ぐにハードボイルド小説の名作、レイモンド・チャンドラーの原題「The Long Goodbye」=邦訳題「長いお別れ」が思い浮かび、続いて新訳をした村上春樹、70年代前半に映画化されたロバート・アルトマン作品と主演のとぼけた味が魅力のエリオット・グーグルドの顔がフラッシュバックされました。
日米の両作を比較すると、方やウエットな気候の日本(ただし、ロサンゼルスのシーンもあり)で、震災前後の現代VS1950年頃の乾燥した米国西海岸ロサンゼルス、方や夫婦・親子と家族愛VS独身者と友情そして裏切り、と見事なまでの対比となります。原作者である直木賞作家の中島京子が、チャンドラーの「長いお別れ」を知らないはずがないと思いますが、本編のタイトルは劇中のセリフにもあるように、米国では、少しずつ、記憶をなくしてゆっくり遠ざかって様子から「Long Good bye (長いお別れ)」と訳される認知症を意味します。出演は、芸達者な「フラガール」少女役だった蒼井優、「ストロベリーナイト」で刑事姫川玲子を演じた竹内結子、黒澤明監督のサスペンス映画の傑作「天国と地獄」の誘拐犯で鮮烈デビューの名優山崎努、吉永小百合とともに日活後期を支えた松原智恵子らの演技の素晴らしさが、この作品の核となっています。
特に次女役の蒼井優、長女役の竹内結子が認知症の進む父親山崎努に悩みを打ち明ける会話シーンは、この映画の白眉で思わず涙腺が緩みます。これから5人に1人が、認知症になる時代と云われていて、他人事ではない深刻とも云える現実をユーモアとペーソスを混じえ、次女長女の諸問題と老夫婦在り方が描かれます。若年性アルツハイマーを描いた荻原浩の「明日の記憶」は、小説も素晴らしく映画化され渡辺謙と樋口可南子が夫婦を演じ話題になりました。本編も小島京子の原作も直木賞受賞作「小さいおうち」と合わせてぜひ読んでみたい思わせる作品の仕上がりです。
ちなみに本編の英題は「A Long Good bye」
5月31日(金)全国ロードショー公開

©2019『長いお別れ』製作委員会
©中島京子/文藝春秋